TOPお店と人物の取材記事荒木直子 シャンソン歌手&シャンソン教室主宰

荒木直子



そして歌はその人になった。

荒木直子
シャンソン歌手&シャンソン教室主宰

rune2

中年男、
シャンソンに接近遭遇する。


シャンソンは、いいぞお。
なにを突然と思われるだろうが、これが只今現在の記者の偽ざる実感である。

ある人に紹介されてシャンソン歌手であり、シャンソン教室も主宰している荒木直子さんを取材することになった。
だが当初、すごく困ったのだ。
まず無知であった。
シャンソンなんてあまり聴いたことがなかった。
歌い手の名も、エディット・ピアフ、イブ・モンタン、それに越路吹雪あたりがよいところ。
名前を上げられれば、ああ、ということにはなるかもしれないが、常識以前の低空をよろよろと飛んでいるような状態だった。曲名となるとさらに危ない。
・・・「愛の讃歌」、それから、えーっと・・・という体たらく。
それに少しばかり偏見もあった。だってシャンソンですもの。
なんかセレブな人たちが昼下がりのサロンに集まって、ポロンポロンと奏でられるピアノに合わせて、
きりきりと歌っているような、鼻にかかったフランス語が飛び交っているような、
お紅茶を手にお姉さま方がほろほろと笑いさざめいているような、
まあそんな絵柄が頭の中をゆっくりと回っていたというわけなのだ。
そんな記者であった。どーしよう・・・と逡巡した。
ええい、ままよと、最初の取材場所である新大宮にあるイトーヨーカドーのレッスン場のドアを開けた。

年に一回開かれるシャンソンの発表会に向けての仕上げの練習に入っているという話を荒木さんから事前に聞いていた。
発表会で生徒さんが一曲か二曲、日ごろの練習の結果を披露するのだという。だからこの日、男女含めて8人の生徒さんが集まり、最初の発声練習こそみんな一緒だったが、
後はそれぞれの持ち歌を荒木さんと共にさらっていくことがメインになる。
練習風景を何カットか撮影して、指導の様子をあらまし見聞きしたら早々に退散するつもりだった。
余計者がいては気が散るだろうし、
それに素人さんのシャンソンの練習を長々と聴いていてもねえという思いもあるにはあった。
だが無知と偏見の分厚い衣は、しばらくするうちにぽろりぽろりと剥がれていくことになる。

シャンソンは、
人生のようにドラマチックだ。


まずは無知の衣。
意外なことに聴いたことのある歌が多いのだ。
CMのバックやレストランやカフェなどに流されている曲など、歌いはじめると、ああ、と思う曲が多かった。
いわゆる耳に馴染んだ名曲の数々という具合。自然と耳はそば立ち、リズムに合わせて身体が揺れはじめる。
しかもフランス語ではなく、日本語で歌われる。
これがまた実に情感と気高さとがない交ぜになったいい歌詞なのだ。
涙をかすかに浮かべた目で不実な男の頬に平手打ちをひとつ、さっと身を翻し
石畳の上をヒールの音も高々に去っていく。
そんな大人の女の姿が浮かんでくる。つまりはフランス映画の一コマ。
色は抑えられていて、かすかにセピアの色調も混じりはじめる。
歌は詩でもある。そんなことを再認識させられる。

「歌詞は日本語を基本にしています。フランス語の発音が難しいということもありますが、やはり歌の意味がわかるということは大切なことだと思うんです」
聴いている人に歌の意味がわかるということは大切なことだ。
だがもっと大切なことがあると荒木さんは付け加えた。
歌い手本人がその歌の意味を知り、情景を思い浮かべ、
その時の心の襞をつかむこと、そして表現すること。
荒木さんの指導は、歌を教えているというよりは、まるで映画監督が俳優と一緒にひとつひとつのシーンを作り上げているようにも見える。
「さあ、もう一度歌って」と促すと、さっきとは打って変わった情景が歌の中から生まれ出ようとする。
それが8人分、ほぼ16曲。まるで人生の様々なオムニバスに立ち会ったような、軽い疲労感と深い充実感の中に記者はいた。
意外な体験だった。偏見の硬い衣はすでに消えていた。

Chante!(シャンテ)
さあ、歌いましょう。


歌の上手い下手は関係ないなどと、人は分かったふうなことを言う。はい左様ですかと聞き流していたけれど、どうやら本当のことのようだった。
発表会への練習もまだ序の口とはいえ、お世辞にも皆さま歌がお上手とは言いがたい。
だが曲の秀逸さと歌詞の深さが、次第に歌い手その人を変貌させていく。
安きに流れようとすると荒木さんのダメだしが飛ぶ。
輪郭は引き締まり、陰影が増して、幻のように何かが一瞬立ち上がる。

発表会の当日、女たちは美しく装い、男たちは凛々しく舞台に立った。
楽屋裏では気もそぞろにさざめいていた人たちも、一端舞台に上がりライトの光を浴びてピアノの一音が鳴りはじめれば、もうためらいはない。
顔を上げ、深く息を吸い、歌がはじめる。
そしていつしか歌は、その人そのものになっていく。
歌の力がすごいのか、歌い手たちがすごいのか、それとも荒木さんの手腕がすごいのか。
総勢25名、全47曲、ほぼ4時間。
全ての歌を聴きとおして、途中不覚にも涙がこぼれた。
中年後期、初老三歩手前の苔むした心がその時、どうやらいたく動いたようなのだ。

荒木直子シャンソン教室
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