TIMES DESIGN,INC.



いい店がある街は、いい街なのだと思う。

TIMES DESIGN,INC. 福森弘行 (建築家・ショップオーナー)

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ああ、いいなあ・・・。


初夏の頃、午後の四時はまわっていた。
そのとき記者はインディアンカフェレストランphool(フール)の奥の方のテーブルに一人いた。ランチタイムの賑わいはもう過ぎて、テラスルームに中年の夫婦らしきカップルと二つほど向こうのテーブルに女性が二人いるだけだった。
静かだった。
ディナータイムに向けて店はゆっくりと深呼吸を繰り返しているようにみえた。斜めに差し込む光が明暗を際立たせ、その影の中に潜むようにわが身を沈めて、こちらもまた深くゆっくりと呼吸を整えていた。
奔流のようだった時間が今はさらさらと流れ、甲羅のような硬い背中も少しはほぐれて、ほーと長い吐息がひとつもれた。

ああ、いいなあ。
なぜかそんなことを感じていた。
phoolにはランチタイムにも来たし、ディナータイムにも来た。ただそれらの時はやはり食事のほうに意識が向いていて、あの昼下がりのような感じはもたなかった。
なんなんだろうな、これは。
その思いが、この店を設計した建築家であり、またこの店のオーナーでもあるTIMES DESIGNの福森弘行さんのもとに向かわせた。

時間が降り積もるほどに
味わいを増していく。


「ホンマモンでないとアンティークにはならないと思うんですよ」
設計するときのモットーのようなものはありますかと尋ねたとき、素材とバランスということかなあと福森さんは言った。
素材というと、やはり天然の素材ということですかとさらに問うと、福森さんは頷いてそう言ったのだ。
「コンクリートとかプラスチックだとかアルミやスティールなどは、出来上がったときにはとても綺麗なんだけど、時間とともに汚れていくばかりのような気がします。その点天然の素材は、時間を上手に取り込んで、風合いというのか味というのか、そういったものがにじみ出るようになりますよね」

人間は猿から分かれて以来、何十万年も天然の素材と付き合ってきたわけで、ヒトのDNAには天然素材に反応する何かが埋め込まれているのかもしれないとも付け加えた。
だからと言って天然の素材を使えばそれでいいというわけではない。それらをどのように配置して、どのような色に仕上げ、どのような質感を醸し出すか。細部ひとつひとつへの徹底的な目配りと、それらをひとつに纏め上げていく力技も必要だ。点描のように細かな色を様々に重ねながら、全体としてひとつの風景を作り上げていく、なにかそのようなことに相通ずるものを感じた。
「要はバランスなんですよねえ。完璧を目指してしまうと窮屈だし、ルーズ過ぎると崩れてしまう。そう、バランスなんだよねえ、そうとしか言えないなあ・・・」
つんつんに尖がったデザイン性とか、これみよがしの自己主張では、どんなに天然の素材を使ったところで、人がそこでほっと息をつける空間を作ることはできない。
出すぎず、引っ込みすぎず、上にも下にも右にも左にも偏らずにちょうどいい所を見つけ出すこと。わあ大変だと、聞いていて思った。

人と街を心地よく満たしていく
空間作りというもの。


建築家でありながら、どうして自分で建てた店の経営もしようと思ったのだろうか。あまり例のないことなので、そのことも尋ねた。
「建築って器みたいなものかもしれませんね。器は人を魅きつける重要な要素なんですが、ただそれだけではいい店にはならない。器に盛られるもの、什器であるとか壁を飾る絵だとか観葉植物だとか。それらがどのようにレイアウトされ、動線がどう構成されるのか。何が供され、どのようにサーブされるのか。そんな諸々が重なり合ったところにいい店が生まれるわけです」
だがただ頼まれて店を設計するだけでは、そういうことにまで手をつけることができない。
で、自分で店も経営してみようと・・・?
そういうことですねえ、と福森さんは頷いた。

現在のところphool以外にあと二軒、富雄の鳥見通り沿いにある宮廷インド料理の店Tagore(タゴール、超有名ですね・・・)と奈良の旧市街は小西通りにあるmellow cafe(メローカフェ、ここも昼下がり、とてもいいです・・・)が福森さんの直営の店でもある。
つまりは福森さんの趣味がギッチリと詰まった場所ということになる。
そしてそれだけではなく、どの店もご存知のようにとてもはやっている。つまりはただ格好良くてお洒落な店を設計できるというだけでなく、その店の良さがお客さんにちゃんと伝わり、評価され、幾度か足を運ぼうと思わせることもできるということだ。
個人の住宅や図書館などの文化施設を設計するよりも、いろんな店を作ることの方が好きだと福森さんは言った。
店はその街の佇まいを作っていくし、人の流れを変えてしまうことだってある。だが一方で雰囲気とか居心地だとか、そういった目には見えないけれど人が確実に感じるなにかで容赦なく判断される。
客の入りの多寡で成績評価されるということでもある。誤魔化しはきかない。
それでも店作りが好きですかと尋ねた。にこやかな笑いが返ってきた。

<TIMES DESIGN,INC.設計&直営のお店>
インディアンカフェレストラン
phool (フール)
奈良市押熊町1325
0742-48-8787
www.phool.jp

インディアンレストラン
Tagore (タゴール)
奈良市鳥見町2-1-5
0742-41-3769
www.tagore.jp

カフェレストラン&バー
mellow cafe (メローカフェ)
奈良市小西町1-8 axe unit1F
0742-27-9099
www.mellowcafe.jp

営業時間9:00〜18:00 
定休日日・祝
住所奈良市学園大和町2-125-10   (地図) 駐車場あり
電話番号0742-41-3200
ホームページwww.timesdesign.com
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