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ちかばのモノ語り ギャラリーなひと時のこと その2

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ちかばのモノ語り 第十二話
ギャラリーなひと時のこと その2

キャンドル作家 塩川藍子さん

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わたしの明日を、灯すキャンドル。

比較的シックな色合いでまとまっているギャラリーカフェ人と木の陳列棚に、ひときわカラフルな一角がある。
塩川藍子さんのキャンドルたちだ。
赤とか黄とか青とか緑とか、ろう特有の半透明な色合いで、
中から薄ぼんやりと色の光が透かし見えるようなものもあって、なかなかきれいだ。
と思うとウサギがきょとんとこちらを見ていたり、胡桃や姫りんごがころりと置かれていたり、おいしそうなカップケーキやタルトが手に取られるのを待っていたりする。
うら若き乙女であるなら、「きゃううん!」などという奇声を上げた後に「まあ可愛いい」という普遍言語で愛でたりするのだろうが、中年後期初老三歩手前の男といたしましては「ふむ」と言ったまま左右に視線をさ迷わせた後に、そーっと立ち去るほかないようなのである。
キャンドルというものは、なにか雌型があって、その中にろうを溶かし込んでぱこんぱこん、がちゃんがちゃんという感じで大量生産されているもののように思っていたので、それをひとつひとつ手作りしている人がいるとはまるで知らなかった。
若い女性で、キャンドルを作っている人がいるから紹介するとギャラリーカフェ人と木の森田さんから連絡をもらい、ある日の夕方、人と木に向かった。
現れたのが塩川藍子さんだった。

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ウィンドサーフィンが大好きで、以前は子供たちを集めてキャンプの実習指導などをする仕事についていたこともある。
本人も認めていたが、どちらかというと体育会系、インドアというよりはフィールドの人のようである。
ただ手を動かすことも大好きで、色々なものを作ってきたそうだ。
そしてある日ある時、ある作家の創作キャンドルに出会った。
その作家も女性で京都の人のようであるが、その人の作品に出会っていたく魅せられ、ああ自分もこういうものを作りたい。そう思ったのだそうだ。
人が志しをもつとき、強く自分を触発する何かとの邂逅がある。
スポーツ選手であったり、俳優であったり、心打つ歌であったり優れた文学であったり、絵画であるときもあるし、美味しい料理であったりするかもしれない。塩川さんにとってはそれが創作キャンドルだった。
運命とか宿命とか、そんな大層な単語は使わなかったけれど、その出会いを語る塩川さんの言葉には体温以上の熱が孕まれていて、その輻射熱がこちらの頬もぽっぽと暖めてくれるようだった。
久しぶりに見たねえ、こんなふうに語る若い人を。
水分の極度に少なくなった涸れた心には、そのような熱い言葉はふつう気恥ずかしさだけが先行して目を逸らさずにはいられないものだが、学生上りではなく、社会の風の暑さも冷たさもある程度知った上での言葉には、上滑りなところはどこにもなくて、愛せるものに出会えたことの静かな喜びがぎっしりと詰まっているように思えた。
語るときの表情、目の動き、手振り身振り、身の乗り出し方、声の調子、唾の飛ぶ角度、そんなものが渾然一体となって放射されるエネルギーのようなもの、その振動が脂身がみっちりと絡み付いたこちら琴線を、それでも震わせるのだろう。

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敬愛する作家のワークショップに何度か通い、後はほとんど自己流でキャンドル作りに励んでいる。
昨年の三月に退職したのを機にキャンドル作りを本職にしようと決意した。
芸事はまずは模倣からという。どこかしこにその作家の影響がまだまだ見受けられるようだが、いずれ逡巡と懊悩と絶望と叱咤を潜り抜けて塩川藍子ならではのものに出会うこともあるだろう。それまで倦まずたゆまずせっせこせとキャンドル作りに励まれんことをと祈る中年後期初老三歩手前なのであった。
今年になって作品を納品に来た塩川さんと人と木の前でばったりと出会った。互いに神妙に新年の挨拶を交わした後、上げた顔がきらきらと輝いていた。
発展途上はとにかくまぶしい。目を細めて家路についた。

塩川藍子さんのキャンドル
・小鳥んこ 500円
・ベリータルト 1000円
・オールドローズ 1000円
・モザイクキャンドル 1000円 など

塩川藍子さんのブログ

取扱店ギャラリーカフェ人と木
営業時間10:00〜18:00
定休日土曜日
住所京都府木津川市相楽城の堀26(地図
電話番号0774-71-0305
ホームページhttp://www.cafe-hitotoki.com/
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