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ちかばのモノ語り ギャラリーなひと時のこと その3

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ちかばのモノ語り 第十三話
ギャラリーなひと時のこと その3

フェルト作家 巽 元美さん

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鳥に魅せられて

今回お話しを伺ったのはフェルト作家の巽元美さんである。
巽さんはいたく鳥にこだわっておられる。
鳥の美しさとか、可愛さとかというよりは、鳥のリアルな姿そのものにだ。
本物の鳥と見まがうまでのフェルトの鳥を作りたいと思っている。手に取ろうとするとぱっと飛び立ってしまうような、そんな鳥を。
「リアルなものを作りたいんですよねえ・・・」
巽さんは品のいい笑みを浮かべ、実に優しげに語る。ただそのようにして語られる言葉の端々に、外見からは窺い知れぬ強い想いのようなものが伝わってくる。
だがこちらには偏見があった。
リアルを目指しても、所詮リアルを越えることはないのではないかという。
誰も見たことのないものを作り出すのがアートを志す者のひとつの夢だとしたら、例えリアルと寸分たがわぬ物を作り出したとしても、この世の中にリアルな物をもうひとつ付け足すだけのことではないのかという偏見だ。
その疑問を口にしてみた。
そうですねえと言って、微笑んでいた。
そんなこと、考えたこともないというふうだった。

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ギャラリーカフェ人と木のオーナー森田さんによると、三年前、初めて持ってきた巽さんの作品は、箸にも棒にも、もちろん木の枝に止まるなんてとても出来ないような代物だったそうだ。
「よくあんな物をお見せしたものだと思いますよ」
そう言って巽さんは笑う。
「ほんまや、もっと鳥を観察しはった方がいいですよって言いましたわ」
森田さんもつられて笑っている。
そう言われて落ち込みましたかと訊ねてみた。
いいえとからりと言い、もっと勉強しなくてはと発奮したと答えた。
まず図書館から鳥の図鑑を借り出して、ページが燃え出すぐらいにためつすがめつ、鳥の写真や絵があればなんでも片っ端から手にとってみた。だがどれもこれも肝心なところが抜けていた。
「鳥の横からの姿は分かるんですけど、背中やお腹、尾羽がどうなっているのかが分からないんですよ」
そう言えばバードウォッチャーが持っている図鑑には鳥の横からの姿しかまず載っていない。
一部に嘴の形の違いなどが図示されているようなことがあっても、背中やお腹がどうなっているかは描かれてはいない。鳥を識別するには必要のない部位だからだ。
だったら実際に鳥を観察しに野山へ出かけて行けばいい。
そう思ったけれど、鳥は片時もじっとしていてはくれず、そう簡単に知りたいことを教えてはくれなかった。
それに主婦でもあるから、そうそう家を空けるわけにもいかない。

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「そんな時、いい本を見つけたんですよ」と巽さんが言った。
ウッドカーヴィングの本なのだという。木を彫って色々な動物を作る趣味だが、その本の中に木彫の鳥の背中やお腹を撮った写真が掲載されていた。仕上がりの緻密さを見せるためにそんな部位の写真も撮るのだそうだ。
それらの図鑑や写真集を穴の開くほど参照して、三年間作りに作った。フェルトの塊をニードルと呼ばれるツールで、巽さんの表現を借りれば「ちくちく」しながら形を作っていく。そうするうちに箸にも棒にも枝にも止まれなかった鳥が、ついには枝に止まって柿の実をついばむまでになった。
たったの三年間で?
「いえ、いえ、まだまだなんですよ・・」
謙遜の静かな微笑を浮かべているけれど、さてそれはどんな三年間であったのかと思わずにはいられない。
こだわる。漢字にすると、拘る。拘束とか拘泥とかの拘。
どちらかというと自らがそう意志するというよりは、自ずとそのような方に向いてしまう。
そうしなければいられない。例え誰かが賢げにアドバイスをしても、そしてそうかもねと思ったとしても、やはりそのままその道を突き進んでしまう。そのような心のありかた。
巽さんと話していて、そんなことを思っていた。そうとでも考えなければ、たったの三年で箸にも棒にもかからなかったものが・・・ああ、もういいか。
リアルを目指す巽さんではあるけれど、小鳥の可愛さをひょいと摘み上げたようなむくむく、もこもこした鳥さんも作っている。
こちらの方が好評なのだそうだが、これも私、あれも私。
そんなこんなで今日もまたフェルトの塊を「ちくちく」しておられることだろう。

巽 元美さんの鳥たち
・すずめ 1100円
・すずめ二羽 2200円
・つばめ 1500円など
*リアルタイプは未発売

巽 元美さんのブログ

取扱店ギャラリーカフェ人と木
営業時間10:00〜18:00
定休日土曜日
住所京都府木津川市相楽城の堀26(地図
電話番号0774-71-0305
ホームページhttp://www.cafe-hitotoki.com/
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