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ちかばのモノ語り ギャラリーなひと時のこと その1

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ちかばのモノ語り 第十話
ギャラリーなひと時のこと その1

陶芸家 井上三智子さん

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用と美とのあいだを 行ったり来たり。

ギャラリーカフェ人と木のこと。
ココにカフェである人と木については取材し書いてあるのだが、ギャラリーな人と木の部分はページ数の制限やら、こちらの書く気やら読者の根気やらの問題で割愛してしまった。
ところが、それでは人と木の魅力の半分も語りえていないではないか!とのご批評をいただき (誰から?) (・・・はて・・・)、ならばということで人と木、そのギャラリーな部分を新たに取材いたし書いてみようということになった。
ギャラリーな作品については、ゾーケイもケンシキもガンリョクもすっからかんな記者ですから頓珍漢なことを言い出すかもしれませんが、そこはどうぞよしなにということでお願い申し上げます。

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で一回目は陶芸家の井上三智子さんである。
お茶碗とかカップとかの日常に使われる陶器をメインに作られている。
美しいご婦人であられる。ところがやはり関西圏のお人。よく喋る、よく笑う。人の話の途中から話し出す。茶化す、ひっくり返す、また笑う。まじめに話し出したので、それに乗っていこうとすると、突然ぽんととんぼ返りをうつ。
陶芸家という既成のイメージにとらわれ、いつになく裃つけて取材に臨んだこちらは見事にすってんころりんいたしました。実に楽しいお人であります。
ただ二度ほど井上さんの目に光が射し、言葉の重心がぐっと下がった時がある。
人と木のオーナー森田さんも加わって、取材はわっはっは、おっほっほという感じで進んでいったのだが、
森田さんが井上さんの茶碗を手に取ってこう言ったのだ。
「あのねえ、ええお茶碗というのは持った感じが軽いんですよ」
持ってみた。確かに軽い。
茶碗の底、高台(こうだい)からなだらかに上にせり上がっている部分を茶碗の腰というそうだが、
ここの削りが十分でないと重いものになってしまうのだという。
削るんですか?
そう削るんです、と井上さんが頷いた。
轆轤を回していても、このあたりを十分に薄く仕上げるのは難しい。だから後でカンナで削っていくのだそうだ。
「ご飯ってけっこう重いですからね。だからお茶碗は軽い方がいいじゃないですか」
茶碗は毎日使われるもの。だからほんのちょっとした違和感でも、それが何度も重なると、ほんのちょっとしたことではなくなってしまう。
鑑賞されるものではなくて、人が使うものを作っている限り、そういうことにも心を向けておくということは
大切なことだということなのだろ。
「そこまでする人、あまりいないらしいですけどね」と森田さんが付け加えた。
「面倒なんですよー」と井上さんは笑っている。

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そしてもうひとつ。
絵付けが凝っている。それも表面に描かれているというよりは、彫り込まれているといった方がいいだろう。
そのひとつひとつに彩色もされている。
一時に二十個も三十個も作るのだそうだが、そのひとつひとつの柄が違う、色も違う。
「同じようにつくれと言われても、無理なんですけどね」と茶化してはいるけれど、ひとつひとつに掘り込みを入れ、彩色する姿は、
その表情とはかなり異なったものなのではないかと想像する。
陶芸家として食べていっている人、趣味でやっている人、その数を合わせれば結構な人数になるという。
そんな中で人の目に留まり、さらにお金を出してもらうには、やはり他とは異なる何かがなければならない。
「そこがね、けっこう難しいところですよね」
井上さんはお茶をぐいと一飲みし、ほんのちょっとだけ沈黙した。
個性の表出が芸術のひとつの現れであるとしたら、彼女もまた「私」の刻印をその作品に残そうとしているのかもしれない。
「遊んでるだけですわぁ」
話がお堅いところに行こうとすると、混ぜ返すようにそんなことをつぶやく。
何かにおさまり返ることを嫌い、常に流れていこうとする。そういう流儀の人なのだろう。
生活の道具としてしっかりと使えるものをつくりながら、その中に美しいものをそっと添える。
食卓にある時、洗う時、飾り棚に置かれた時、そんな時にふと目にして、心の中にかすかなそよぎでも生まれれば・・・。
日常の生活がほんの少し彩りを増して、楽しくなれば上々ということだろう。
「どう、ええでしょう」
ギャラリーカフェ人と木のオーナー森田さんが嬉しそうに笑った。

井上三智子さんの作品
茶碗  1500円から
湯飲み 1500円から
コーヒーカップ 1800円から

取扱店ギャラリーカフェ人と木
営業時間10:00〜18:00
定休日土曜日
住所京都府木津川市相楽城の堀26(地図
電話番号0774-71-0305
ホームページhttp://www.cafe-hitotoki.com/
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