葉香製茶



お茶をめぐる不思議の国の円卓会議
(葉香製茶生産会議 取材記)

葉香製茶
辰巳純一 辰巳洋子 

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それって、
あべこべじゃないの。


「値上げしなさいよ」という声が上がった。
円卓を囲む者たちの中から、そうだ、そうだという声が上がり、みんな力強く頷いている。
円卓の中央に座る者はうつむき加減で、しばらくしてから深々と頭を下げた。
賃上げ闘争の現場を取材したわけではない。
葉香製茶の辰巳純一さんが主宰する生産会議での一齣だ。
来年から消費税が上がる。その分お茶を買ってくれる人の負担が増えてしまうから、お茶の値段を下げようかと考えていると辰巳純一さんが言うと、
なに言ってんのよというような剣幕で声が上がったのだ。
繰り返します。
ここは賃上げ闘争の現場でもないし、お茶を生産する者たちが集まった消費税対策会議でもない。
生産者側は辰巳純一さんと母上の洋子さんだけ。
あと円卓を囲んでいるのは葉香製茶のお茶を買っている人たちを代表して、今日この会議にやって来た人たちだ。
つまりは消費者ということですな。

デフレ、デフレ、デフレ。安くなれ、安くなれ、安くなれ、とまるで呪文のようにあちらこちらでかまびすしいこの世の中で、
ナンナンダコノ光景ハ、と記者の背中をぞわぞわとなにか得体の知れないものが走ったわけなのだ。
だって、消費者が生産者に値上げを迫っているんですよ。
また、また、ご冗談を・・・。
そんなふうに斜に構えかかり、しばらく聞き耳を立てていると、どうやら皆さん別に冗談や洒落で言っているわけではないことがわかりはじめる。
「そうおっしゃってくださるのはありがたいのですが、来年には3%、そしてその翌年には5%消費税が上がります。できうる限りこちらの方で努力して、その分をなんとか・・・・」と純一さんがさらに重ねる。
まだ言うか!という勢いで否定の声があちらで上がり、こちらで弾ける。
「今まで安く提供してもらってきたんだ。消費税が上がるからって、今さら文句言う人なんていませんよ」
その声に純一さんはもう何も言えなくなった。

とっても不思議な会議だった。


冗談や洒落でないのなら、これは手の込んだ芝居だね。
取材の者が来るというので、みなで示し合わせて一芝居を企んだのだ。
ならば拍手でも送ろうかとしばらく見ていた。
だが素人さんにしてはせりふに力がこもっている。
役者を揃えたとしたら、さすがに手が込み過ぎだ。
まさかそこまでやるか?
となると、本気ということか・・・。
ああ・・・、本気なんだ・・・。
腐れきって汚れまくり、淀んでしまった記者のような心や感性では、そこまで気づくのにたっぷりと時間がかかったということなのだ。
でもこれ、フツーの反応じゃないでしょうか。
彼らこそヘンなんですよ。
生産者の側が値下げしたいと言い、消費者の側が値上げしろと要求するなんて、ウサギの穴に飛び込んで、さかさまの世界にでも紛れ込んだかと思っても不思議ではないはずだ。
そう思いません?

話し合いはそれからも熱く続き、値上げ貫徹(?)という結論に至ってひとまず決着がついた。
あとはお茶の生産の諸問題についてや、現代お茶事情などが話し合われ、今後も良いお茶作りに励みます、そうあるべしという言葉の交換で会議は終了した。
ケッタイナ会議ヤッタナア・・・。 正直そう思った。
だが考えようによっては、作る側は買う側のことに常に思いを致し、買う側も作る側を大切に思っているだけのことだ。
そんな不思議でもなんでもないことを、不思議に思ってしまう、
そんな自分こそが不思議の国の住人なのではないかと、
ふと黙り込んでしまう。
なにが真っ当なことなのか判然としなくなった記者は、頭を右に傾けたり、左に傾けたりしながら会議場をあとにした。
少し曇天の日で、それでも冬にしては暖かく、スパークしかかっている脳髄をゆっくりと冷ますように、
そよそよと気持ちのいい風が吹いていた。

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定休日 ―
住所奈良市月ヶ瀬月瀬859  (地図)
電話番号0743-92-0916
ホームページhttp://web1.kcn.jp/yokocha/
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