TOP特別連載企画バイシクルのある日常

バイシクルのある日常

beguru

バイシクルのある日常
第一回


雑誌で紹介されていたスコップをあるショップで見つけた。
手に取った時の重さの具合や、取っ手の手に馴染む感じがすごく良かった。
土をすくうみたいに左右に動かしてみた。
重さのバランスがいいようで、自然に腕が動いた。
スコップの先端は、鈍い銀色に輝いていた。
これならバターナイフを使うようにすっと土の中に入りそうな気がした。
なるほどスコップなのに雑誌で紹介されていたわけがわかった。
いいねえ、この感じ。
値札を見た。スコップに対して抱いている感覚とはちがった値段が記されてあった。
かなり高価だったということだ。
だがもしガーデニングに凝りはじめていたとしたら、 それでもすごく欲しくなったのでは
ないかと思う。
このスコップで土いじりをしたら、楽しいだろうなあと想像した。
土を掘り返すだけなら、スコップのような形状をしているものならなんでもいい。
何の過不足もない。
ただこのスコップを使えば、単なる作業が少しだけ違ったものになるのではないかと思えたのだ。
土を掘り返すなんて実に単純な作業だ。
そんなことの中に楽しさなんてあるのだろうかと思われるかもしれない。
そうだよなあと、頷き返しそうになる。
でもあの時の感触をもう一度思い出してみる。
・・・スコップを手に取りさくっと土の中に入れ、掘り返す。 さくっと入れて、ほっこりと掘り返す。
さくっ、ほっこり、さくっ、ほっこり・・・・・。
やっぱり楽しそうだ。
もちろん想像の域は出ていない。
だがいい道具は便利で使い勝手がいいだけではなく、使っていて楽しい。
そういうものではないかと思った。
だから作業がはかどり、いい仕事もできる。
職人は道具を選ぶというけれど、いい仕事をするためには単に使い勝手がいいだけではなくて、
使っていて手が喜ぶような、心がちょっとだけ浮き立つような、そんな道具が必要だということなのではないだろうか。

サイクルショップ・バイシクルカラーのオーナーである丹さんと話していて、
自転車とは似ても似つかないスコップのことを思い出していた。
スコップは作業用の道具で、自転車も通勤・通学や買い物に使うのなら
便利な道具だといえるだろうが、
丹さんのショップで扱っている自転車と呼ぶよりはバイクと呼ぶ方がふさわしいような
趣味の乗り物をふつう道具とは呼ばないのではないかと思っていた。
ところが丹さんはそうではないと言うのだ。
「うちで扱っているバイクも、街中を走っている普通の自転車と同じで移動のための道具であることに
かわりはありません。ドロップハンドルのロードバイクはさすがにそれらと同じと言うには
無理があるかもしれませんが、クロスバイクと呼ばれているタイプはそう言ってもいいでしょう」
確かに同じだと言われてしまえば、どちらも車輪は二つで自分の足で漕いで走る乗り物だ。
「ただその移動の質が少し違うかもしれません。より速く、より快適に、それに走っていてすごく楽しい。そういった面は確かにあります」
しかしほんの二三キロ先の駅やスーパーに行くのに快適さや楽しさって必要なんだろうか。
歩くよりは速い移動の道具としての自転車と、より遠くへより快適に走りにいくためのバイク。
日常生活の中の便利な道具と、休日の洒落た趣味のツール。
記者の頭の中にはそんな棲み分けができていた。
だが丹さんはそんな境界線は取っ払った方がいいと言う。
その時ふとあのスコップのことを思い出したのだ。
それは単に土を掘り返すための道具に過ぎない。だけど・・・・。
ちりん、ちりんと頭の中で鈴が鳴って、きょろきょろと眼が動きだし、耳がぴくぴくしてきた。
面白い。その話、じっくりと聞かせてもらいましょう。

(第二回へつづく)

取材先バイシクルカラー 
営業時間平日 12:00〜20:00   土・日・祝 11:00〜20:00
定休日水曜日(祝日の場合は翌日)
住所奈良市中登美ヶ丘6-3-7 リコラス登美ヶ丘B102 (駐車場あります) (地図
電話番号0742-52-8118
ホームページhttp://bicyclecolor.com
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