バイシクルのある日常
バイシクルのある日常
第二回
坂道を登っていた。
試乗にとバイシクルカラーの丹さんが貸してくれたクロスバイクに乗っていた。
息を切らしていたかって?
いや、それほどでもなかった。
長くだらだらとつづく坂道だったが、あれっと思うくらい短い時間で登り切れた。
当方、不摂生の塊である。
運動も体操も散歩もまったくしていないから、筋肉なんて既に脂がまわって、とろとろのぐずぐず。
坂道の途中で筋肉が痙攣するか、どこかの筋が強張って道端で呻いているかと恐る恐る走り出したのだが、あれよあれよと言う間に坂道を登り切っていた。
動力はポンコツなわが両足だけ。坂道のてっぺんで振り返り、その長さにあらためて驚いた。
ご存知のように、このあたりでは平坦な道を捜す方が難しい。
僅かか、かなりかの違いはあるにしても、道は上っているか下るかしていて、
自動車やスクーターではわかりにくいかもしれないが、自転車に乗ると途端にその道の起伏が身にこたえる。
だが丹さんが貸してくれたクロスバイクというタイプの自転車に乗ってみると、
その起伏をさほど苦もなく越えていけることがわかった。
もっと驚くことがあった。
坂道を登りきって平坦な道になったと思ったら、今度はバイクが漕ぎもしないのにすーっと走っていく。
まるで平坦にしか見えないのだが、道がほんの僅か下っているようなのだ。歩いてみてもまずわからない。
だがこのバイク、すごく敏感に道の起伏に反応する。
スポーツバイク専門店で扱っているような高価なものだもの、それぐらい当然でしょ。
そういう声が聞こえてきそうだ。
記者もそう思っていた。
フェラーリやポルシェが凄いのはわかっている。だけど誰でもがそれが買えるわけでもないし、
あれほどの性能がいつもいつも必要ってわけでもない。
だが丹さんはそうではないと言う。
「バイシクルカラーで扱っている製品は、お金持ち相手の高級品なんかじゃありません。
本来自転車が持っているべきものを作りこんだ製品であって、自転車っていうのは本当はこういうものなんですよということを知ってもらえたらと思っています」
その自転車である。
脂身たっぷりの中年後期初老三歩手前でも坂道を楽に登りきり、平坦に見えるような道でも
すいすいと風を切ることができた。
するとどうなるか。すごく愉しくなるのだ。
試乗させてもらったとはいえ、そんなに遠くまで行ったわけではない。
店の周りを一巡りして、さらに住宅地の方まで行ってみたが、走行距離にしたら数キロも走ったかどうか。
時間にしても半時間ほどのことだ。たったそれだけのことでも、走っている自分がまるで別人のように思え、
見慣れた街並みがサイクルロードのように感じられたりした。
微笑みながら走っていたから、傍目には少し不気味に見えたかもしれない。
試乗させてもらったバイクは別に特別仕様のものではなくて、
バイシクルカラーで扱っているクロスバイクの中ではスタンダードなものだ。
バイクそのものの自重を可能な限り軽くして、フリクションロス(摩擦の度合い)を小さくしていくという
自転車の操縦性能の多くを決定付ける部分には十分な注意が払われている。
もちろんそれだけで快適な乗り心地が実現できるわけではないが、
その部分をおろそかにしては、自転車が本来持っている愉しさに繋がる性能は作れないのだと丹さんは言う。
「自転車が1kg軽くなると、自分の体重が10kg軽くなったぐらいの性能効果があると言われています」
と丹さんが教えてくれる。
クロスバイクという種類のバイクはバイシクルカラー以外のサイクルショップでも売られている。
そのほとんどが12から13kgの重さがあるようだが、記者が試乗したものは10kg。
ということは少なくとも2kgほどの差があるわけで、丹さんの言葉に従うと2×10で、20kgほどわが体重は軽くなったというわけだ。
嘘でしょ・・・。
バイシクルカラーに置いてある姿見で確かめたけれど、相変わらずのシルエットが映し出されただけだった。
「いえ、それは計算上のことでして・・・」
念のためと丹さんが付け加えた。
しかし20kgも軽くなれば(例え計算上でも)、物を動かすのはとても楽になるのは道理で、
なるほどだから楽々と坂道を登り、たいして力を入れずとも走り出すことができるのだとわかる。
あんなに短い距離、それに短い時間でもその面白さがわかるのだから、
ちょっとそこまでだからとかといって、わざわざ重たい自転車に乗ることもないよなあと思いはじめた。
だが値札を見たとたんに、そんな思いも萎んでしまった。
そこに印刷されてあったのは、普通これぐらいの自転車に思い描く価格とは、少し距離のある価格だったのだ。
(第三回へつづく)
取材先 | バイシクルカラー |
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営業時間 | 平日 12:00〜20:00 土・日・祝 11:00〜20:00 |
定休日 | 水曜日(祝日の場合は翌日) |
住所 | 奈良市中登美ヶ丘6-3-7 リコラス登美ヶ丘B102 (駐車場あります) (地図) |
電話番号 | 0742-52-8118 |
ホームページ | http://bicyclecolor.com |